深夜である 再び住人を失おうとしている六畳間は静寂に包まれている 押し殺したような静けさの中、時計の規則的な音だけが聞こえている 刻一刻と無慈悲に時を刻んでいる 生まれてから、少年時代までを過ごしたこの家 毎日眠りについたこの部屋 かぶと虫の飛び込んでくる玄関 草花に覆われ、ドジョウやオタマジャクシの泳ぐ水路から水を引く水田 カエルの大合唱 蛍 ツトムお兄ちゃんとのキャッチボール チハルお姉ちゃんの手料理 ツトムお兄ちゃんの遺体は隣の部屋に安置されたのだった 明日からか、あさってからか まったくの未経験、家族のいない暮らし かつてない日常の崩壊 しかし決して忘れてはならない 自分が何処から来て、何者であるか