木造平屋
1989年3月末


	深夜である

	再び住人を失おうとしている六畳間は静寂に包まれている
	押し殺したような静けさの中、時計の規則的な音だけが聞こえている
	刻一刻と無慈悲に時を刻んでいる

	生まれてから、少年時代までを過ごしたこの家
	毎日眠りについたこの部屋
	かぶと虫の飛び込んでくる玄関
	草花に覆われ、ドジョウやオタマジャクシの泳ぐ水路から水を引く水田
	カエルの大合唱 蛍
	ツトムお兄ちゃんとのキャッチボール チハルお姉ちゃんの手料理

	ツトムお兄ちゃんの遺体は隣の部屋に安置されたのだった

	明日からか、あさってからか
	まったくの未経験、家族のいない暮らし
	かつてない日常の崩壊

	しかし決して忘れてはならない
	自分が何処から来て、何者であるか

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