その後
1997年12月2日 23:05


	今回のこれだけの経験も
	実はそれほど大したことではなかったのかもしれない
	同じ病棟内には今も
	先の見えないまま
	想像を絶する苦痛に耐えている人々がいる
	黄昏の光を浴びてたたずんでいる人々が
	忘れられない
	そこにあるのは絶望
	それは未来の自分
	かりそめの命を与えられた

	あらゆる生命は
	いやこの宇宙のすべての存在は
	滅びることを運命づけられている
	けれどもどうしても自分を他人と比べずにはいられない
	なぜ自分だけ・・・
	ちがう
	生まれてすぐ死んでしまうもの
	交通事故により一瞬で死んでしまうもの
	ロリコン親父に犯され殺されてしまう小学生
	多くの人生がある


	滅びの時が早い遅いだけの問題ではない
	短くとも自分さえ満足な人生を送ればそれでいい
	本当にそれでいいのか
	自分をこの世に存在たらしめてくれた両親や先生や友人たちは
	いったいなにを期待していたのか
	(なにも期待などしてはいない)

	人間社会はそれが内包する国や企業や家族という個々の社会の集合体で
	自身の存続と発展への原動力を本質として持ち、互いに衝突や共生をし、
	自然淘汰を進化の原動力としている
	個々の社会はそれぞれが文字通りの生物なのだから
	人類はその社会生物単位で知識や労働力を開発、保持、行使することによって
	生物個体単体のときの数倍〜数億倍の力を持つことに成功し
	他の生物や土地を手中に収め、地球をここまで改変してしまった
	ぼくはその社会の一角を構成する細胞として生きていくしかないのか
	違う
	真に歴史を紡ぎ出すのは
	一握りの天才だけ
	それ以外は代替可能な汎用部品
	時代を奏でる音楽の背景ノイズにすぎない



	何人ものお医者さん
	たくさんの看護婦さん
	同じ病気の友人
	同室となった老人たち
	掃除のおじさん
	庶務のおばさん
	事務のお姉さん
	お見舞いに来てくれた方
	メールをくださった方
	そして
	このページを読んでくださった方に
	感謝します


	消滅する多様性
	枯れてしまった創造力
	アンバランスなエネルギー収支

	あの渇望はどこへ行った
	もう一度いじめられたいか
	寝る度に一つ歳をとる

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