あれから 1年が経った 退院してから 半年が経った 1年前の今頃 ぼくはICUのベッドの上で 自分がスターになったと確信し 変な夢をいっぱい見ていた 看護婦さんが自分の面倒を見てくれるのは ぼくが有名人だからだ 高熱と痛みと麻酔と死臭の中で 唯一楽しみにしていたのは 氷水でのうがい 飲んでは駄目 もちろん飲まなかったさ 家族以外は面会禁止 家族でも3時間に一度5分間のみ 白衣、マスク着用のこと ごぼごぼ 「なんの音?」 と僕は聞いた ごぼごぼ 「ポンプの音だよ」 と弟は答えた ごぼごぼ 「お腹の中身を吸い出しているのさ」 と父は答えた じゅー ずたずたな内臓が 肝臓をも犯し 黄疸で黄色な僕には だれも鏡を見せてくれなかった 看護婦さんが何人もかかって巨大な僕のベッドを押し ICUからものすごく狭い廊下やエレベータを上下して CTルームへ向かう 長い長い道のり CTは息を止めなくてはいけないから辛い それを数十回も繰り返した その結果が出ると ぼくはもう一度、手術室へ向かうことになった